にじみ絵教員養成講座研究会主催「にじみ絵と子どもたち」
ライアーコンサートとともに、
林先生が子ども達と向き合ってきた実践を振り返り、お話してくださいました。
ライアーの弦が歌い出すと、ステンドグラスの方舟が、一瞬動いた。
日本の秋の童謡は、こんなに透明な調べだったろうか…。
ヴィヴァルディの曲は、こんなに温かい表情をしていたろうか…。
午後の陽射しが、この9月に生まれ変わった愛児園のはこぶねの部屋に虹色の光模様を映し出す中、にじみ絵教員養成講座研究会の集いは、ライアーの響きと共に始まりました。
この日方舟に乗り合わせたのは、ライアー演奏家のいよべ敏恵さん、田中あづ紀先生、林典子先生、研究会メンバー4人、そして愛児園の先生1人です。
この愛児園で、子どもたちが命名した「まほうの絵の具」であるにじみ絵を通して子どもたちの成長を見守ってこられた林典子先生が、16年にわたる歩みを振り返り、お話しくださいました。
林先生がにじみ絵と初めて出会ったのは23年前。色がふわーっと広がる様を見ながら
「自分で描いている感じがしない…気持ちいいなー」と感じたそうです。
水に導かれて色を楽しんだ後、絵の中に見えてきたものは、母親であるご自身と娘さんの姿でした。
その後、田中あづ紀先生と出会い、にじみ絵の世界に深く関わり、実践へとつながっていきます。
原動力は、常に先生が保育の現場で向き合う、愛児園の子どもたちにありました。
―絵筆を手にしたまま固まってしまう子ども―
―紙とにらめっこして、周りの様子を伺っている子ども―
―赤・青・黄の三原色を重ねようとせず単色だけを塗る、緊張度の高い子ども―
そんな子どもたちを心の中で解放してあげたいと密かに願いつつ、
先生は言葉少なに静かに語りかけます。
「絵の具をぽとりと落としてみよかー」
「お筆をお散歩させてごらん。」
「絵とお話してごらんー(胸に手を置いて)ここでお話よー」
そして、先生は待ちます…待ちます…。待ちました。
すると…。
―絵の具が広がっていく様子に見入り、先生の顔を見上げてにこっと笑いかける子ども―
―堰を切った様に夢中になって描き出し、ビンに入った絵の具を一気に使い果たした子ども―
―色を混ぜることのなかった子が、色と色の間を、何回もかけて少しずつ縮めていき、
空白を埋めて、ついに2つの色を触れ合わせ、色の領域を超えて重ねていった―
青と赤が交わって紫色になったのを見た時、
「ああ、この子にこの時期が来たのだな…」と林先生は感じたといいます。
「にじみ絵を描いているその瞬間が、その子の絵なのです。
その子独自のペースで出し切って、本人が筆を置くまで寄り添って待ちます。
その一瞬一瞬に立ち合って傍で見ている自分はとても幸せです。」と、先生は微笑みました。
一方お母さん方も、わが子が描いたにじみ絵(乾かしてお返ししたもの)を見て、子どもの歩みや折々の節目を感じ取っていらっしゃいます。にじみ絵は、日々変化していく環境の中で悩み、頑張っている子ども達の、親御さんへのことづてにもなっているようです。
そしてこの日、研究会のメンバーが勇気をいただいた言葉もありました。
それは、林先生がにじみ絵の実践活動を続ける中で迷った時に
「私は、私なりのスタンスでやっていこう。」と思い切ったということです。
お話しの後、参加者との語らいの中で、林先生は空間づくりの大切さにも触れました。
子どもたちが安心して過ごせるように、空間が発する雰囲気にも配慮しながら、自分自身の心と体調も整えて、子ども達を招き入れるようにしている――と。
この日愛児園のはこぶねの部屋にいた私たちは皆、「まほうの絵の具」のお部屋に招かれた子どもだったのかもしれません。
秋の日をなごり惜しむように、再びライアーの繊細な音色が私たちを包み込みました。
夕影がガラス窓からさし込んでいます。
「せんせ、夕焼け見たよ。まほうの絵の具みたいにきれかったー。」
(文:中島小百合)